大阪市住吉区は、関西で第2位、全国でも第5位の参拝人数を誇る住吉大社や、様々なスポーツイベントに使われる長居公園(正確には東住吉区にあるが、最寄りである長居駅が住吉区にあること、「長居」という地名が住吉区にあることからそういえる)があるにも関わらず、より強烈な印象のある西成区がすぐとなりに位置していることもあってか、影が薄くなってしまっている印象がある。区内を走る南海の速達列車やJRの快速も住吉区を素通りしてしまうこともあってか、ただでさえ薄い印象により磨きがかかっていると感じてしまう。
しかし、そんな場所であってもやはり大阪は大阪だ。今回は、そんな住吉区にある商店街のひとつ、「あびこ中央商店街」についてご紹介する。
大阪では珍しいアーケードなしの商店街です
あびこ中央商店街の最寄りは、地下鉄御堂筋線「あびこ駅」である。本数の多いことで有名な御堂筋線だが、約半分の列車が手前の天王寺で梅田方面へ折り返してしまうということもあり、ここまで来ると本数も少なめ(谷町線の末端区間より少ない)で、どことなくのんびりした雰囲気が漂っている。
なお、「あびこ」という駅名だが、もともとは「我孫子」と表記する。ところが、漢字が難しいという理由、読みづらいという理由でひらがな表記にしているようだ。千葉県のあびこは漢字なのにね。(ちなみに、この近くを走るJR阪和線にも「我孫子町」という駅があったりする。ここからはやや離れた位置(徒歩5分程度)にあるので気をつけよう。)それにしてもこちらは我孫子と漢字で表記するあたり、大阪メトロとJRの意識の違いを感じてしまうのは筆者だけだろうか。
そんな地下鉄あびこ駅、その北側の改札を出場し地上に上がるとすぐに見えてくるのがその商店街だ。正確には「あびこ中央商店街」と呼ぶのが正解なのだが、愛称を定着させたいのか「あびんこ」の4文字が際立つような文字配置になっている。公式サイトにも「あびんこ」が大きく掲載されているあたり、相当アピールしたいのだろう。これが成功するかどうかは筆者にはわからないが。
このあびこ中央商店街だが、ある一つの大きな特徴がある。それは「アーケードがない」ということだ。大阪では、道頓堀に面する心斎橋筋商店街や戎橋商店街、「大阪三大商店街」と呼ばれる天神橋筋商店街や千林商店街、駒川商店街などといった有名な商店街のほとんどにアーケードが備わっている。それに加え、それ以外の多くの無名(といっては失礼だが)商店街までもがアーケードを備えている。その中でこの商店街は異色の存在だといえよう。屋根がないため雨の日は不便かもしれないが、空が見えて明るい雰囲気になるというメリットもあるのでどっちが良いかは一長一短だ。ある意味「大阪らしくない」風景だ。
アーケード商店街でないという特徴をもつあびこ中央商店街、それもあってか車も普通に通ることができる。とはいえ、商店街内に駐車場がないこと、歩行者が比較的多いこと、チャリンコがそこらじゅうを走っていることもあってか、車はめったに入ってこないようだ。実質歩行者天国状態である。
歩行者とチャリンコしか通らないというこの道の特性もあってか、この商店街にはとにかく自転車が多い。平成27年に経済産業省、近畿経済産業局に投稿されたレポートによると商店街内に常時1000台以上の自転車が駐輪されていたとのことだ。自転車王国・大阪市とはいえ恐ろしい数である。梅田や難波では自転車撤去が進んでいるため、ここも撤去すれば良いのではないか、と考えてしまうのだが、残念ながらそれはできない。というのも、このエリアは自転車放置禁止区域に指定されていないからだ。一般的に大阪市は、都心に厳しく、郊外に優しい態度を取ることが多いのだが、この状況を見ても大阪市の本質は変わっていないようだ。
そんなあびこ中央商店街だが、特筆すべき点がある。それは、古い雰囲気を残しつつも、キレイなお店が多いという点だ。一般に、この手の商店街は骨董品レベルの激古店が営業を続ける商店街、チェーン店だけが占拠し、個人店の影が薄くなってしまった商店街、そしてシャッター商店街の3つに大きく分類される傾向があるが、ここはチェーン店だけでなく、個人店でも多くのお店がキレイにされており、このどれにもあてはまらない特殊な商店街だった。若者向けでない商店街ではまず見られない、非常に面白い光景だ。
とはいえ、このあびこ商店街といえど、平穏無事というわけにはいかないようだ。駅から近いエリアはまだ良いものの、比較的駅から離れた部分は空き店舗だらけ。一時期に比べると空き店舗の数は減ったようだが、現在でも苦しい状況は変わらないようだ。それにしても、いくら空き店舗とはいえ公道にまで募集看板を出すのはどうかと思いますよ、いくらなんでも・・・
やたらセールしていることを推す靴屋
ここで、このあびこ商店街でなんともブッ飛んだお店を発見したのでご紹介しよう。靴専門店「アミューズ」さんだ。
このアミューズさんの特徴だが、これはもう言わなくてもお分かりだろう。
SALEの文字が異常に多いのだ。
店の上からこれでもかと垂れ下がっている「SALE」の4文字。しかも赤い蛍光紙に書かれているせいで目がチカチカしてしょうがない。正直、多すぎて店に入る際にかがまないといけないのですがどうなっているのでしょうか。商店街の個人店だからこそなせる技である。
そんなカオスなことをやっている「アミューズ」さんだが、肝心の靴の値段はというと、正直大して安くはない。ただ、決して高いということもない。いたって普通の価格、という印象だ。専門店ということもあって評判も良いそうなので、一度訪問されてみてはいかが?
イオンを危険視しているが・・・
多くの商店街が衰退していく中でも踏ん張り続けているこのあびこ中央商店街だが、この商店街も多くの商店街と同じ問題を抱えている。イオンの存在だ。
(画像はWikipediaより抜粋)
あびこ中央商店街のあるあびこ駅の隣、堺北花田駅に位置するイオンモール北花田はこの近辺でも非常に大型の大型商業施設で、ショッピングセンターであるにも関わらず阪急百貨店が入居するなど(現在は閉店)、他のモールとは一線を画す画期的な施設として注目を集めた。
あびこ中央商店街はこの存在に大きな危機感を抱いており、様々な画策を行っているようだ。先ほどのレポートによると、「商店街は、大阪市の制度を利用し、コーディネーターを派遣してもらい(中略)今(注:平成27年当時)では商店街の5%程度まで(空き店舗を)減らすことができたのです」と記載されており、「イオンと共存する」取り組みそのものは今のところ成功しているらしい。見たところ、2021年現在では空き店舗も増えているようだが大丈夫か・・・。
そんな状況下にあるあびこ中央商店街でにぎわっていたのは、何を隠そう、イオンフードスタイルbyダイエーだった。イオンに危機感を持ちつつ、当のイオンをその商店街のうちに入れてしまうという・・・ 全国でよく見られる事例ではあるのだろうが、この状況に言葉の出なくなる筆者だった。