そごうという企業は非常に面白いもので、1980年代から1990年代、とりわけバブル期の再開発事業においては全国においてその顔をのぞかせている。最盛期にはその店舗数が30を超えていたというから驚きだ。もっとも、これは実際に開業したものだけを数えており、実際にはこれよりもっと多くの計画があったというからもう笑うしかない。
そんなこの「そごう」という企業だが、兵庫県内の一地方都市・加古川市にもかつて出店を行っていたことがあった。そしてその百貨店は今、別の百貨店が入居し、今に至るまでその姿を残しているのだという。今回は、そんな兵庫県加古川市にある元そごうの跡地「ヤマトヤシキ加古川店」について、その元となった建物「加古川そごう」の歴史とともに、現況を見ていくこととする。
元加古川そごう、「ヤマトヤシキ加古川店」の歴史
ヤマトヤシキ加古川店は、2001年に開業した百貨店だ。元々そごうが営業していた場所・建物をそのまま譲り受ける形で開業し、今に至るまで営業を続けている。もともとヤマトヤシキは姫路に本店を持つ百貨店で、加古川店はその支店という位置づけで開店したのだが、業績不振が続き2018年に閉店。この結果、2021年現在営業を行っている唯一の「ヤマトヤシキ」となっている。
先ほど「元々そごうが営業していた場所・建物を譲り受け」と書いたが、この地にはかつて「加古川そごう」という百貨店が営業を行っており、加古川駅前第二地区第一種市街地再開発事業とともにそごうグループ22店目の店舗として1989年に開店した。当時はバブル期ということもあり、別館を建設するなど(現在は解体)相当なにぎわいを見せていたようだが、後の不況により売上が低下、そごうの経営破綻もあいまって2000年に閉店へと追い込まれた。神戸にもそごうがあるのにも関わらず「ストップ・ザ・コウベ」などという言葉を掲げてお客さんの流出を避けていた部分があったし、共食いになっていた感は否めないのかもしれない(この辺の事情に関しては「そごう さらに壮大なる未来へ」という本に詳しく載っている)。
なお余談だが、第二地区ということはもちろん第一地区があるというわけで、こちらは「サンライズ加古川」という雑居ビルが建てられている。
現在では、この建物を加古川市傘下の第三セクター「加古川再開発ビル」が取得、それをヤマトヤシキに貸し出す形で営業を行っているようで、百貨店と併設する専門店街「カピル21」とが一体となって運営が行われている。もっとも、これはそごう時代から変わらないが。
百貨店と専門店街の共存する「ヤマトヤシキ加古川店」の現況
※一部モザイク加工を施しています。
加古川そごう・ヤマトヤシキ加古川店の歴史について軽く触れたところで、ここからはヤマトヤシキ加古川店の現況に触れていくとしよう。駅の改札口を抜け、地上から2Fへペデストリアンデッキを上がったところに、ヤマトヤシキ加古川店の正面入口が現れる。かつてはここにそごう名物「世界の人形時計」が設置されていたようだが、それもそごうからヤマトヤシキが運営に変わった際に撤去され、今はヤマトヤシキの大きなマークが前面に広がっている。
メイン入口周辺の景色はこのような状態。いかにもそごうらしい、赤色(の大理石や床が一面に広がっている。非常に広い空間なのだが、誰もいないのが惜しい。旧徳島そごうでも同じような風景を見たが、こんなところからもそごうというデパートの過大さが見てとれる。
館内に入っていこう。先ほども申し上げた通り、館内は百貨店「ヤマトヤシキ」と専門店街「カピル21」とが一体となって運営されており、ある程度棲み分けはなされているものの同じ建物の中で買い物を行うことができるようになっている。
ツッコミどころの多いレストラン街
まずはエレベーターを登って最上階・7階へ。屋上はビアガーデンとなっており、夏期・関係者以外進入禁止とのこと(開業当初は「メルヘンランド」なる屋上遊園地があった模様)。また7階はレストラン街となっているものの、現在はわずかに2店舗のみの営業。寂しい・・・。
現在、7階にはレストラン以外に「かこがわ将棋プラザ」なる公営の将棋会館と「加古川駅南子育てプラザ」という市営の子育て拠点施設が運営されている。子育てに関連する公共施設が商業施設内にあるのはよくあることだが、将棋会館というのは珍しい。もともと加古川市は将棋のプロ棋士を多数輩出する都市となっており、その関連からこのような施設が作られたのだそうだ。すごい気合の入れようだな。
しかし、あくまでここは居抜き物件。かなり無理な造りをしているようで、なぜかだだっ広い通路が子どもプラザの間を突っ切るように設置されている、しかもその割に豪華なシャンデリアが設置されているなど、なんだか非常にアンバランスな光景が広がっている。
そんなレストラン街の館内だが、一部だけ明らかに他とタイルの異なっている部分があることに気付く。実はこのタイル、かつてそごう名物「川の流れる名店食堂街」のあった名残となっている。昔はここに水が流れ、まるで河のようにフロアの中を巡回していたものだが、今はそれもなく、このタイルだけがその景色を思い出させてくれる。無用の産物だった、ってか。
百貨店と専門店街の共存する店内
下の階へと降りていく。それぞれの階によって構造は異なっているものの、基本的に百貨店と専門店街「カピル21」とが場所を隔てつつも共存する形となっている。エスカレーターが1か所のみで共有していることからもその状況がよくわかるだろう。
百貨店と専門店街との分かれ目はこのような状況。非常扉がある関係でやや閉塞感を感じるが、まあ仕方がないか。
しかし、百貨店側と比べ専門店街側は空きテナントもポツポツと出ており、お客さんも少なく全体的に寂しさの広がる状況。百貨店と違い母体がないのも大きいのか、店主さんたちもなんだか微妙にやる気がない。
別の階からヤマトヤシキと専門店街とを見つめる。なんだか百貨店側に比べ、なんとなく専門店街側に寂しさが見られる気がするのだが、気のせいだろうか。