かつては大阪でも屈指のオフィス街としてその名を轟かせ、住友グループや日本生命といった名だたる企業の本社があった街・船場。しかし近年では彼らの多くは東京に本社を移転し、それに加えてオフィス賃貸面積でも梅田に首位を明け渡すなど、あまり明るくない話題も多いのが実情だ。今回は、そんな大阪のオフィス街・船場の象徴といえる建物、船場センタービルをご紹介する。
高速道路の下にあるビル
さて、いきなり紹介すると言われても、「船場ってどこやねん」となる方もいるだろう。というのも、船場という地名は駅の名前には使われていないからだ。船場というエリアは、正確には定義されていないものの、一般に定義されているのは下の赤い線の中、北は土佐堀通から南は長堀通まで、東西は阪神高速1号環状線に挟まれた内側のエリアとなる。大阪市中央区の中でも中心の中心に位置しており、その場所柄、オフィスや商店が多く立ち並んでいる。
そしてこの中で、船場センタービルは下の青い線で示した部分にある。
ん、待てよ。
そこは高速道路だろ?そんなところに建物なんかあるのか?そう思うのも無理はないだろう。しかし、建物は実際にある。先ほどの写真を見てほしい。
なんと、高速道路の下に建物があるのだ。
中央大通の上を走る阪神高速の真下、地下鉄本町駅から堺筋本町駅の間の約1kmにもわたって築かれているこの建物、これこそが船場センタービルなのだ。高速の柱代わりにビルを作り、建物を入れてしまおう・・・ このいかにも大阪らしい最先端の発想だが、なんと建てられたのは1970年と、実に50年以上も前のことになる。その割にずいぶんとキレイな外観をしているが、これは2014年にリニューアルされた結果こうなったらしい。余談だが、この建物において「阪神高速」はなんとテナントとして入居しているらしい。テナントも何も、別に入れるわけではないんですが・・・
キレイな外装とボロボロの内部
そんな2014年に外観をリニューアルした船場センタービルだが、だからといって中も大きく変わっているかというと決してそんなことはなく、中身に関して言えば今も昭和らしい懐かしの(悪く言えば薄暗く小汚い)風景が広がっている。
船場センタービルは地下鉄本町駅や堺筋本町駅と直結しており、買い物には非常に便利だ。もともと「市営モンロー主義」などという、大阪市が都市開発を牛耳っていたおかげか、そのせいなのか、アクセスだけは非常に良いのがこのへんの再開発ビルの特徴だ。とはいえ、公営団体が施設を管理するということは、その分お役所的であるということも意味しており、こんなビミョーな光景が今も残るという結果ももたらしている。この辺は、阿倍野区の「あべのベルタ」にも通じるところがある。
地下鉄の通路を抜けると、すぐに入口がお出迎え・・・って、この入口一つとってもどうにかならなかったのか、と感じてしまう。こんな状態で若い人がやすやす入っていくビルってそうそうないですよ。公営施設特有のボロさがこんなところに出てしまうあたり、なんだかやはり公営であることの限界を感じてしまう。
入口からして既にこれなのだから、内部に関してはもう説明する必要もないだろう。いかにも昭和らしいタイル・昭和らしい照明・昭和らしい鉢植え。1970年代らしい無駄に荘厳な雰囲気が漂っているのはなぜなのだろうか。大阪駅前なんとかビルとかあべちかあたりにありそうな絶妙な風景のお出ましである。
若者なんか相手にしない中の店舗
さて、これまで船場センタービルの施設について紹介した。そして当たり前のことだが、若者が来ないそんな激オンボロビルに若い人向けのお店が入るわけもなく、入居するお店の大半は中年・高齢者をターゲットとしている。一応ダイソーなんかもあるのだが、わざわざダイソーに行くためにここまで来る若者は地元の人間くらいしかいないわな。
それにしても、洋服が安い!!
もともと船場は繊維問屋が集まって発展した部分があり、その関係か今でも衣類や革製品を売るお店が多くそろっている傾向にあるのだが、それにしても異常な安さだ。ジャケットが300円なんて、西成でもなかなか見つかりませんよ、お兄さん。オジ服オバ服でも許容できるなら船場はかなり狙い目のスポットといえるだろう。
こちらのビルに至っては、中古とはいえ浴衣が500円で売られていた。西成も干上がる恐ろしい安さだ。それにしても「リサイクル製品の為針・ホチキスの芯が入っている場合がございます」ってどないなっとんねん。針はまだしも、ホチキスの芯って・・・。やはり大阪はどこまでがんばっても大阪なのだ。
そんな船場センタービルだが、最近は大阪市の衰退や、隣接する梅田エリアの再開発もあいまって、特に駅から離れたエリアでは空き店舗が多く発生しているようだ。かつてここで「客を選ぶ店」としてその名を轟かせ、テレビ取材もよく入っていた伝説の下着店「ファンデ」もネット通販に押され現在は撤退してしまったとのこと。
この名物店主・津田さん、今はどこに行ったのだろうか。ファンデ公式サイトの店舗案内から検索しても良かったのだが、どうやらこのサイト、長い間更新されていないようで、既に閉店した店舗がいまだに掲載されていたり(船場のお店も載ったまま)、トップページが表示されなかったりと、なかなかカオスなことになってしまっている。この店主さんについてご存じの方、いらっしゃいましたらぜひお問い合わせからお知らせください。お待ちしております。
そんな若者の来ない船場センタービルだが、最近では若者の集客対策もしているらしい。それがこれだ。
違う、そうじゃないんだよな。
レストランだって激安です
ここまで、船場センタービルの激安店について触れてきたが、激安なのはなにも衣料品店に限らない。船場センタービルは、レストランだって激安価格で提供しているのだ。
例えば、こちらのお店「パレット」では、ランチと称してカレーライスやミートスパゲッティ、カルボナーラといった料理をワンコイン500円で提供している。サイゼリヤのカルボナーラが500円することを考えるとこの安さがわかるだろう。
続いてこちらのお店、「海鮮市場かつら丸」の様子だ。刺身の定食は750円、カレイの煮つけ定食は700円・・・ 東京のオフィス街ではまず見られない、恐ろしいほどの安さだ。さすが「大阪の食い倒れ」と言われるだけのことはある。このコロナ禍であってもそりゃ繁盛するわけだ。
そんな繁盛さもあってか、地下街の一部はキレイにリニューアルされ、「船場女将小路」なんていう(大阪にしては)シャレオツな横丁まで完備されている。もちろんこちらも大にぎわいだ。もう飲食店専門のビルでも作るべきだとさえ考えてしまう。
飲食店激戦区の船場センタービルだが、なんと海外に750店もの店舗を展開し、逆に国内には73店舗しかない「味千ラーメン」が出店していた。こんな超がつくほどの激戦区に出店するなんて、なかなか度胸のある選択だとしか言えない。
こんな苦しい状況下ではあるが、船場センタービルにはぜひ頑張っていただきたい、そう感じた1日であった・・・。