高度経済成長期に発生した大量の住宅需要にこたえるため、大阪府堺市の南部に大規模に造成されたニュータウン・泉北ニュータウン。「泉北ニュータウン」と検索すると候補に「失敗」や「空き家」と出てくるなど、ネガティブな印象の多いこの泉北ニュータウンだが、近年では駅前を中心に大規模な再整備が行われており、大阪という立地を考えてもまだまだ今後の変化が楽しみだと、個人的には感じている所だ。
そんな泉北ニュータウンでは住居がいくつかの街区に分かれており、それぞれの街区の中心を担う商業施設として「近隣センター」なるものが整備されている。日常の購買施設と地域の中心を担う公共施設を集めた存在として整備されているこの近隣センターだが、最近当サイトの読者から、
近隣センターははっきり言って死んでます。昭和40年代のまま。撤退したスーパー跡地と整骨院だらけの近隣センターってある意味不気味です。
という情報を頂き、行ってきた次第。そんな「不気味」な状態となってしまっているこの近隣センターという場所がどんな場所なのか、4回に分けてご紹介しようと思います。第1回となる今回は「近隣センターの概要・歴史・近隣センターを取り巻く現状」について特集し、第2回~第4回でそれぞれの近隣センターの様子について見ていく予定です。
なお、それぞれの近隣センターの現在の様子については地区ごとに以下の記事で公開していますので、よろしければどうぞ。
泉北ニュータウンにおける近隣センターとは
泉北ニュータウンにおける近隣センターは、泉北ニュータウンの各近隣住区の中心施設・コミュニティの核として設置された商業施設兼公共施設の役割を持つ存在だ。それぞれの近隣センターに商業施設(一部無くなりましたが)と公民館的な役割を持つ存在が両立しているのが特徴で、それぞれの住区の徒歩圏(半径約500m)の範囲内に設置されている。泉北ニュータウン全体では16の近隣センターが設置されており、コミュニティの中心としての役割を果たしてきた。「果たしてきた」と過去形なのはその現状にあるのだが、それは後ほど。
近隣センターの歴史
泉北ニュータウンにおける近隣センターは、泉北ニュータウンよりも前に開発の行われた千里ニュータウンで採用された「分区システム」が起点となっている。分区システムとは1つの住区をいくつかに分割するシステムのことで、当初は泉北ニュータウンにおいてもこれが採用される予定だったのが、自家用車の普及やスーパーマーケットの台頭、千里ニュータウンの分区システムがうまくいかなかったことから見送られた経緯がある。
「近隣センター」という存在が泉北ニュータウンで初めて登場したのは1967(昭和42)年のこと。当時ニュータウン内で先行して開発の進んでいた宮山台地区に「宮山台近隣センター」という施設が登場したのが最初となる。その後、ニュータウンの建設とともに次々に近隣センターが開業し、1978(昭和53)年の城山台近隣センターの開業をもって、16ヶ所にも及ぶ全ての近隣センターが開業。足掛け11年の開発というから驚きだ。
それぞれの近隣センターには商業施設として「食料品や日用雑貨を中心とした店舗やマーケット」が、公共施設として「公民館、図書館分室、児童館、郵便局」などが整備。一部の近隣センターについては公衆浴場(≒銭湯)なんかも整備されており、文字通り近隣住民の集まる場所としての整備を果たしている。
近隣住民の中心として泉北ニュータウンの各所に整備されたこの近隣センター。しかし、冒頭の読者からの指摘にもあるように、近年はこの近隣センターの店舗が次々と閉鎖され、非常に寂しい状態の近隣センターが多く発生しているというのだ。ここからは、泉北ニュータウンにおける近隣センターの現状について、データを使って解説していくこととする。
近隣センターを取り巻く現状
まずは、こちらの表をご覧頂きたい。
この表は、泉北ニュータウンの属する堺市が平成27年に公開した「泉北ニュータウン 近隣センター再生プラン資料編」に掲載されているもので、近隣センターが開設されてから調査時(平成26年10月)に至るまでに、各近隣センターに入居する店舗がどう変化してきたかを示すものとなっている。これを見れば分かる通り、店舗数こそ増えているものの、食料品を扱うお店が大幅に減少し、医療や福祉系統の店舗が0→64店舗と激増しているのが読み取れる。
さらに上の資料から分かる通り、本来近隣センターの核店舗となるはずのスーパーマーケットが撤退してしまった近隣センターも数多く見られるのが現状だ。なお、2021年に泉北コミュニティに掲載された資料によると、現在この状況は上の調査が行われた当時よりもさらに悪化しており、今やなんと16の近隣センターの中でスーパーがあるのはわずかに6つのみという凄惨な調査結果が報告されている。さらに全体の2割超が空き店舗だというから目も当てられない。
上の調査では今後の泉北ニュータウンの人口予測に関するデータも公表されている。これに関しても非常に厳しい予測データが公表されており、現状既に若年層が少なく高齢者の多い状況や、今後も人口は減少し高齢者比率は上がっていくという、典型的な現在の日本の様子を表すグラフが発表されている。
近隣センターにこのような現状があるのはもちろん人口減少も大きいのだが、周辺に多くの大型スーパーや商業施設が開業したのも大きいようで、1999(平成11)年には「アクロスモール泉北」が開業、その後も立て続けに車での移動に便利な幹線道路沿いにスーパーが何軒も立地するなど、徒歩客をメインにしていた近隣センターにとっては明らかに不利な状況が次々と発生し、現在のような衰退に追い込まれてしまった。泉北ニュータウン造成時から「自家用車の普及」に関しては既に指摘されていたのだが、それがこういう形で発現するとは皮肉ですね。
そんなお世辞にも明るい状況とはいえないこの近隣センターだが、2022年現在どのような状況となっているのか、ここからは実際に現地での取材を通じて見えてきた風景について見ていくとする。