「西武百貨店」「西友」「パルコ」といった様々な生活基盤事業を立ち上げ、一世を風靡したことで知られるセゾングループ。現在はグループこそ存在しないものの、それぞれのブランドは今も様々な企業によって保有され、その歴史と存在を今に至るまで受け継いでいる。
今やその面影が消えつつあるこのセゾングループだが、兵庫県尼崎市にはそんな状況下にある今もこのセゾンの面影を色濃く残す施設、「つかしん」なるものが存在しているらしい。今回は、そんなセゾン西武時代の残り香漂う超大型再開発施設「グンゼセンター つかしん」について、その歴史と現況を見ていくことにしたい。
甲子園グラウンド5個分の再開発「つかしん」
グンゼセンター つかしんの歴史
グンゼセンターつかしんは、兵庫県尼崎市に位置する商業施設だ。冒頭で書いたセゾングループの創業者・堤清二が提唱した街づくりの概念を体現した施設として1985年に開業。「グンゼ」と名前についていることから分かる通り、グンゼ株式会社の工場跡地を再開発する形で作られている。その広さは甲子園球場5個分というから凄まじい。
「つかしん」という少々奇妙なこの名称は、開業前の計画名「塚口新町開発発展都市」の略称によって名付けられたもので、コピーライターの糸井重里氏によって命名されたのだそうだ。随分と安直な名前の付け方だが、その定着ぶりを見る限り、この名称は成功と言って良いのではなかろうか。
お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくらへ /PHP研究所/糸井重里
グンゼの工場を再開発して作られたこのつかしんなる施設、当初は「西武百貨店つかしん店」を核テナントとし、小売店によるショッピングモール・レストラン街・映画館「シネマつかしん」などで構成される複合商業施設として開業した。セゾングループが深く関わっているというその事情もあってか、当初は西武グループのホテル「プリンスホテル」を建設する予定まであったという。
しかし、後述する「イトマン事件」の発生や近隣に多数の商業施設が開業したことにより売上は低迷、2002年には西武百貨店が百貨店事業から撤退し専門店ビルに転換、さらに2004年にはその西武が資本を引き揚げてしまうなど、状況は悪化の一途を辿る。セゾングループの解散もあり、施設所有者のグンゼによって運営が行われることになった。
運営を引き継いだグンゼはリニューアルを実施。関西最大級となる源泉かけ流し大浴場「湯の華廊」をオープンさせたほか、大規模リニューアルによって100を超える新規テナントを誘致。「庶民的」をテーマに、他のショッピングセンターにはないテナントを多数入居させたことにより、現在では来客数・売上ともに上昇基調にあるとか。堤清二の目指した姿からは遠い存在になってしまったが、日常使いに便利なショッピングモールとして、今も多くの人でにぎわっている。
戦後最大の経済事件「イトマン事件」の舞台です
グンゼタウンセンターつかしんを語る上で忘れてはならないのが、かつて存在した西武百貨店を舞台に起きた事件・・・そう、「イトマン事件」の存在だ。バブル景気に酔った総合商社「イトマン」が大阪裏社会を象徴する存在・許永中に接近。偽の絵画取引で数千億円もの資金が裏社会に流れたという大規模な事件は社会に衝撃を与えた。
関西のみならず日本全体に衝撃を与えたこのイトマン事件だが、このイトマン事件につかしんはほとんど関与していない。というのも、この事件はイトマン株式会社と許永中との間で起きた偽の絵画取引が肝となっており、その絵画取引を行う際、「西武百貨店塚新店」という名目で鑑定書が偽造されてしまった、という状況下にあったのだそうだ。要するに、つかしんは利用された形になってしまったのだ。
「利用された」形になってしまった西武つかしん店だが、その影響は甚大だったようで、この事件を機に売上が大きく減少、その後も客は戻らず、結果的に前述したように2002年に専門店ビル化、2004年には西武そのものが撤退という憂き目に遭っている。まあ、西武百貨店そのものがいまや関西から消滅してしまっているし、遅かれ早かれ今のような状態になっているのは容易に予測できますがね。
回想イトマン事件 闇に挑んだ工作30年目の真実 /岩波書店/大塚将司
バブル、不況、イトマン事件・・・迷走するつかしんの今
美しすぎる外観、豪華すぎる設備
ここまで、グンゼタウンセンターつかしんの歴史、そしてその悲痛な事件について書いてきた。ここからは、現在のグンゼタウンセンターつかしんの状況について見ていこう。
まずはメイン玄関から。西武名物・斜行エレベーター、そして巨大な噴水広場がお出迎え。甲子園球場5個分の面積を誇るだけのことがあり、中庭一つを取っても非常に美しい。
「カリヨンガーデン」と名付けられたこちらの大規模な広場。特にイベントが行われているわけではないものの、平日・休日問わず多くの人(特に子どもたち)で賑わっている。
なお、イベントに関してはここから離れた「ロマンチック広場」と呼ばれる場所で行われている模様。こっちのほうがずっと広いのに、勿体ないなぁ。
外からつかしんの様子を見ていく。「つかしん」はドイツのアウグスブルクをモチーフにした異国情緒漂う街並みが特徴となっており、少々ハリボテ感もあるものの、周辺のイ〇ンなんかとは似ても似つかぬ美しい風景で溢れている。とても尼崎にあるとは思えない。
この豪華すぎる設備は館内の随所に現れており、東側入口には今もライオンの口から水が注がれている様子を見ることができる。いかにもバブルらしい景色だが、とてもショッピングモールにある風景とは思えない。周りにチャリンコが並びまくってるせいでそう見えないのが惜しい(笑)このあたりは同じ時期に開業した「ニッケコルトンプラザ」にも見られる。
その豪華すぎる設備には目を見張るものがあるようで、施設内には教会まで設けられてしまっている。この教会は「つかしんコミュニティチャーチ」というそうで、毎週日曜日には礼拝を行う現役の教会となっているそうだ。
そうかと思いきや「湯の華廊」なる温泉も設置されており、こちらはいかにも和風な建物が鎮座している。かつては西洋風の建物ばかりが並び、驚くほどの統一感があったというこのつかしんだが、今となってはそれも崩れてきているようだ。