大阪市の中でも大正区と言えば「平成最後の昭和の日にJR大正駅で明治のR-1を飲む」という、今考えると一体何をしたいのかよくわからなかったツイートで話題を呼んだあの大正駅があるエリアにあたる。しかし驚いたことに、大正区内にある鉄道駅はあの大正駅のみで、区の大半を占める埋め立て地エリアには鉄道が一切通っておらず今も大阪シティバスに公共交通の全てを依存しているという、大阪市内でも屈指の「交通の便が悪い」エリアでもあるということは案外知られていない。
そんなこともあってか、JR大正駅から大正区の南端、鶴町四丁目とを結ぶバスの多さには目を見張るものがあり、昼間でも5-8分間隔でバスが走るという、大阪市内でも屈指のバス頻発地帯となっている。
ところで、先ほどの話を聞いてこんなことを感じたのではなかろうか。
「鶴町って、どこだ?」
と。そこで今回は、そんな大正区の端の端、鶴町には一体どんな風景が広がっているかについて、写真とともに解説していこうと思う。
IKEAはあるけどやっぱりアクセスには難あり
鶴町といえば、何と言っても「IKEA鶴浜」が有名だろう。2008年にオープンしたこのIKEAだが、なんでこんな辺鄙な場所に出店したのかということはさておき、なんやかんやこの地に定着している。IKEAの隣には「IKEAコバンザメ(と取材班は勝手に呼んでいる)」こと東京インテリアさんも出店しており、既にバチバチの戦争を繰り広げている次第だ。
なお、「IKEA鶴浜」などという名前を名乗ってはいるものの、実際の地名に「鶴浜」というものは存在せず、このIKEA鶴浜も住所上は「鶴町2丁目」という扱いになっている。鶴浜という地名はかつて存在したものの、今は消えてしまったようだ。なぜわざわざ「鶴浜」などという名前を名乗っているのか、本当によくわからない・・・
そんな鶴町地区だが、そのアクセスはお世辞にも良いとはいえず、区の他のエリアとを行き来するには北側に繋がっている「なみはや大橋」を経由して大阪港方面に出るか、千歳橋を経由する方法、そして南側につながる府道5号線を通るかしかなく、JR大正駅までバスで25分、なんばまで40分という所要時間を考えると、実質的に車かバスかを使わなければいけない状況が今も続いている。しかしこれでもまだ改善されたほうで、かつては南から回るルートしかなかったというから驚きでしかない。地下鉄長堀鶴見緑地線が鶴町まで延伸するという話もあるが(これに関してはNMBC氏のYouTube動画が非常に分かりやすい)、なんだか今のゴタゴタを見てるとおいおい大丈夫なのか、と勘ぐってしまう。
そんなもんだから、皆さんそろって大阪シティバスで向かうわけですが・・・写真を見れば分かる通り、みなさんお年を召した方のようで。昼間でもイスが埋まる程度には混雑しており、バスがいかに重要なのかということが分かるのだが、若者が一人たりとも乗っていないあたり、結局そんなもんなんです。
寂しさの拭えない商店街「鶴町商店会」
不穏な状況を醸し出している鶴町地区だが、やはりここは大阪市内である。こんな場所であっても数千人もの人口が住んでいるし、そしてそうであるがこそ、商店街だって整備されているというものだ。大正区内のメインロードである大正通の鶴町南公園交差点付近からは「鶴町商店会」なる商店街が整備されており、地域の買い物を支えている・・・
のであれば良かったのだが、こちらもいかんせん高齢化の波が押し寄せているのか、営業中のお店はごくごくわずか。西日本最大の都市であるはずのこの街も、その実状は意外にも相当厳しいものがあるようだ。そういえば大阪市のデータに「各区の人口推移」というのがあるんですが、大正区の人口って昭和40年代がピークになってるんですよね。その影響がここに現れているのか・・・
数少ない「残っているお店」も死屍累々といった状況で、なんだか大阪市内というより地方都市の駅前にしか見えないんですが、いったいどうなっているんでしょうかね。たとえ近隣にIKEAが出来たとはいえ、IKEAに来るお客さんはIKEAから出ることはせず、結果地元の街は潤わない。辛い現実だ。
この鶴町商店会、一応南北に約200mほど続く商店街ではあるのだが、取材班が訪問した際はなんと買い物客なし。通行人はいくらかいるようだが、後述するスーパーへと向かう人やただ自転車で商店街内を通過する人々だけが目立ってしまった。とても大阪市内には見えないんですが、取材班だけですかね・・・。
とはいえ最低限の暮らしはできます 最低限ですが・・・
いろいろと問題を抱えるこの鶴町地区であるが、とはいえやはりウン千人の人口を持つエリアだけのことはあり、ちゃんとスーパーが整備されている。その名も「アプロ鶴町店」。鶴町商店会の中ほどに整備されており、中心的な存在となっている。かつては公設市場上がりの「Freshつるまち」なるお店が営業していたようだが、現在では大阪を中心に関西に幅広く店を構えるチェーン店が入居している。なお、その奥にある建物は「UR都市機構鶴町アパート」というマンションで、なんと1968年築と、既になかなかのインディーズ物件となっている。ちなみにHOME’Sによると最寄り駅まで3.5kmあるそうです。
このアプロさん、業績好調だったのか、2020年には鶴町地区北部に「アプロ北鶴町店」なるお店を追加で開業してしまった。某ウイルス下で恩恵を受けるスーパーマーケット業界だが、人口減少の続く鶴町地区に2店舗目をオープンさせるとはよほどのことがあったのだろう。こちらの店舗は営業時間が10時~19時、しかも毎週日曜日は定休日と、利便性に関してはやや難ありな部分もあるが、それでもやはりあるだけ儲けものというものだ。場所面での不利な側面ばかりが目立つ鶴町地区だが、苦しい中でどう地域のネットワークを維持していくのか。難しいかじ取りが迫られている。